時代を創る人々
昭和13年

奔流の中、陸相に気合いをかける男
影佐禎昭大佐

 

八面玲瓏という言葉があるが、この言葉をそのまま身につけているのが陸軍省軍務局課長の影佐禎昭大佐である。部内の者によく、政治家によく、民間の者によい。このよさというのは決して単なるうけが良いということではなく、政治層にも経済層にも、民間にも彼をよく知っている人をもっている、という意味である。だから彼が仙台の野砲連隊から参謀本部の支那班長に転じ、事変勃発するや直ちに参謀本部の某本部の某課長に就任した時など、彼を知っている者は一様に適材適所だと評していた。

この要職たるや実に重要なる地位で、事変遂行や指導については側面に在ってある種の重大なる立案をなしてこれを実行してきたものである。この要職はその性質上、横の連絡が極めて多く、ひとり陸軍省とばかりでなく内閣、外務省、海軍省、民間各層に向かって切れぬ関係のあるところであるから彼の働きたるや全く三面六臂というわけであった。外で見るのも気の毒なほど彼はよく働いた。この働きの結果は直ちに参謀次長にヒリヒリ伝わり、やがて陸軍大臣を通じて政治の上層面に反響を呼んだのは勿論、外務、海軍の中堅どころへも鋭い電波を送っていたもので、文字通り影の人であり、縁の下の力持ちであったのである。

彼は更にその手腕を認められて本年六月十九日に現職に転じ中村軍務局長をよく輔佐している。軍務局は彼に負うところ正に絶大なる物がある。陸軍大臣ー次官ー軍務局長ー軍務課長という一本の系統はあたかも直流電源のようなもので、この電気はいつも影佐のところで起こされているのである。軍政一致という大きな政治奔流の中にあって板垣陸相を輔佐し、場合によってこれに気合いをかけるのが影佐である。

影佐は広島県の出で、士官学校は第二十六期の砲兵。常に優等の成績を持ち続けていた男、将来どこまで伸びるか判らぬ男である。本年四十六歳の働き盛りであるが余り多角的な交わりが多いから気をつけていかねばならんと卦に出ている。

 

(句読点、漢字、旧仮名遣いなどは現代に合わせて修正)

 

 

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