九、先鋭化せる日支関係のカモフラージュと長期抗日を決議した廬山会議

 

これでもって日本の中では随分国民党が精神を入れ替えて不良性を無くしたという風な考えで相当喜んだ人もあるのであります。しかしながらこれをもってこの国民党の本質的な対日政策転換とは決して見ることは出来ません。その他北支那では黄郛停戦協定成立後における日支関係の修正ということに相当な努力はしております。また各地における抗日政策、これも多少の緩和をみたことは認めます。しかしながら日本と徹底的に手を握るということは、これはもう国民党に関する限り到底出来ない話であります。表面だけでも抗日政策を緩和しようとすると、これはすぐ国民党の党是に反するというわけで反対の連中が怒るのであります。こういうわけでありますから蒋介石が国民党に三行半を突きつけてしまわぬ限り日本と手を握ることは出来ないのであります。この前もやはり支那の公使館の人に会った時にその人が蒋介石を非常に褒めるのであります。私は蒋介石の偉いことは認めるが、しかしこれが国民党を背景としてている限りは私は打倒蒋介石という信念は曲げることは出来ない、しかしながら偉いことは知っているから国民党と手を切って、日本と手を握っていこうということを考えるならば、日本の民間の者も、政治家も事業家も蒋介石を援助するであろう。かくのごとき殊勝な考えを起こすならば、日本は裸になっても東洋の平和のために蒋介石と手を握っていくのにやぶさかでないと言ったのでありますが、なかなか蒋介石は国民党と手を切ることはこれは非常に困難な問題であって、国民党の中に入っている限り国民党の党是から、また今までの行き掛かりから考えても当初の親米排日主義の政策を転向するがごときは夢にも考え及ばないところであろうと私は確信を持っているのであります。昨年の七月から九月までの間に三回にわたって九江のすぐ傍に廬山というところがあります。?陽湖という湖の傍にあって風光明媚なところでありますが、この廬山で国民党ならびに政府の要人が集まって重要会議を開いたことがあります。その際にこういうことを決議している。対日政策は差し当たり日本の神経を刺激しないように日支関係を先鋭化しないようにする、表面的には日支関係の常道復帰を図るけれども、長期抗日の方針は一切これを放棄しない、欧米との経済的の関係を密接にして、そして国力を培養し形成の推移を待つという方針を決議しております。

 

十、1936年を目指して頬被り主義で行こうとする支那の魂胆

 

同時に支那の航空兵力ー支那じゃない南京政権の航空兵力を三年間で千五百機にする、それから蒋介石の直系の軍隊は現在二十八個師団ありますが、それを六十個師団に増やそうと言う事を決議しております。支那のことでありますからして決議をしたから必ず実行するとは限らないので、実行してみなければ本当にやるのかやらぬのか分かりませんが、こういう決議をしております。何を隠そう三年というのが、これが日本としてはいわゆる1936年の主として日本とアメリカとの間の海軍の比率が問題になる時なのであります。その頃までに何とか頬被り主義で行こう、1935、6年になれば日本は非常に国際的に危うい時になるのだから、それまで頬被りでもって日本の神経を刺激しないようにやっていって、その時に問題が起こったら目の青い連中と一緒になってひとつ日本をやっつけようじゃないかという、こういうものであろうという風に想像するのは決してこれを僻目じゃなかろうと思います。やや旧聞に属するのでありますが、一昨年の十二月南京で第四回の第三次中央執行委員全体会議、こういう風の名前の会議が開かれた際に次のことが方針として決定されました。日本を共同の目標としてアメリカ、イギリス、フランスと連合すると共に、ソビエト・ロシアとの復交を策する、そして世界の戦争を予期してそれに対する準備をやる、非常な大きな事を言っております。それには兵備を大いに改善してこれを近代化するという風なことを決議しております。また満州に対しては今までのような義勇軍を使って日本と正面衝突をする、決戦をする、こういう風なことは駄目だ、だからして広く満州の各地に土匪を配置して、日本軍の治安維持を妨害し、満州国の経済機構の完成を攪乱する、こうすれば結局日本は土匪の討伐に東奔西走して奔命に疲れるに違いない、財政の赤字を出している日本としては満州のために金が続かぬようになって、結局満州を放り出して支那と妥協を求めるようになるだろう、こういう風なことまで付け加えられております。かくのごとく支那の一般外交方針はいわゆる三年間頬被り主義、自今機に乗じて英米等と手を握って善処しようというのであります。

 

十一、アメリカの対日国策を反映する支那空軍整備への援助

 

しかしてこの外交方針に基づいて兵備はいかにしているかと申しますと、第一に空軍でありますが、満州事変や上海事変でもって支那側は日本の空軍が多いために非常な脅威を受けて支那の飛行機の無力ということを暴露してまいりました。それ以来何とかして支那の飛行機の数を増やし、空軍の勢力を拡大しなければならないというわけでアメリカと手を握ってアメリカの力によって空軍を整備しようという計画を立てております。丁度この方針はアメリカの考えと一致するのであります。つまりアメリカは日本における太平洋作戦を有利に指導するために現在の支那に対して自己の航空兵力の拡張をしよう、ということを考えているのでありますが、このアメリカの考えと支那の自己の空軍を拡張しよう、そして将来日本を中心とした太平洋問題の起こった場合において日本の敵国と手を握って巧くやろうという考えと一致して、爾来支那空軍の発達、アメリカの支那における航空勢力の進出という二つの事実が相当顕著に現れるようになってまいったのであります。アメリカがこの支那の親米政策を利用して飛行機を売り込んだり、あるいは顧問を入れたり、教官、技術者などを入れて非常に力こぶを入れて支那空軍の発達ということに努力しておりますが、相当な真剣味であります。ことに支那に対して金を貸す条件として中支那及び南支那の地方でもって飛行機の根拠地を求めていること、ないしは航空会社を作って支那海沿岸に航空線を着々拡張しておること、こういう事実はフィリピンにおけるアメリカの空軍の存在ということと併せて考えますというと、我々としては特に重視しなければならない大問題であるのであります。よく支那の沿岸にアメリカの航空会社の飛行機が飛んでも何ら問題はないじゃないかという風な事を言う人がありますが、飛行機によってある地域の空に関する知識を得るということは非常に大きな問題であります。将来もしも万一日本とアメリカの間に非常事が惹起した場合に、現在南支那にある飛行場ー飛行場にはいろいろ設備がしてあります。それが直ちに日本に対する作戦に利用されるということは日本としては非常に重大な問題であります。アメリカが何故にかく力をば支那の空軍拡張に入れているか、これは先ほど申しましたごとくアメリカの将来における太平洋作戦を有利に指導するための準備であります。これは空軍ばかりでなくしてその他に支那のいろいろの軍需資源を整備したり、または支那における要塞を整備するについても非常な力こぶを入れてやっているのであります。これはアメリカが単なる経済取引としてやっているのではなくして、彼の行動にはアメリカの国策が反映しているということは容易に看取し得ることであります。商売だけの取引ならばこれは問題ではないのでありますが、支那に飛行機を売ったりしても金がとれるかどうか第一問題であります。そういう所へうんと飛行機を売り込み、教官を入れる、技術者を入れるということは、単純な経済取引としてこれを理解することが出来ません。必ずこれは国策の反映であるとしてこれを見なければならないのであります。

 

十二、対支政策打開の途は満州国王道政治の完成

 

要するに只今まで申しましたがごとく国民党を背景とするところの南京政府、これは今でこそ露骨な抗日政策は採っておりませんが、それは日本の力を恐れて一時頬被りで通そうとする方針に過ぎないのであります。いずれはその本音を吐く時機が到来するに違いありません。ただいつ到来するかは時の問題に過ぎないのであります。廬山会議の結果を考え、ないしは支那がアメリカと手を握って軍備の整備に日夜努力しているという風なことを考えるというと、これは早晩頬被りを脱ぐ、その脱ぐ時機は日本が国際的な危機にぶつかったという風なときであるまいかとこう想像されるのであります。また、かくのごとき事が国民党の本質から考えて当然なことなのであります。国民党が今の性根を入れ換えて本質的に日本と手を握ろうということは、これは国民党の指導精神が許さない、今まで十数年間その方針を採っていた国民党が今になって政綱を改めて、敢然として生まれ変わってやろうということはこれはもう事情が許さないのであります。前に私が支那は一つの胴体に沢山の首がくっついていると申しましたが、国民党はこの沢山の首の中の一つの首であります。私のように国民党の到底済度しがたいということを申しますと、いかにも対支政策を悲観したように見えます。しかしこれは国民党政府すなわち支那であるという考えで、支那という胴体には今の南京政府、いわゆる中央政府、この一つの首しかくっついていないという風に考えている人に対しては、これは真に悲観論に違いないのでありますが、私のように支那という胴体に沢山の首がくっついている、その一つの首が病膏盲に入って済度し難いという判断を下しても、これは悲観ではないのであります。しからば日支関係をいかに打開するか、もう他に打開する方法はないかと言いますと、それは方法は幾らでもあります。前申しましたごとく支那には利害関係を異にする沢山の首がくっついているのであります。政府と人民の関係は正にその通りであります。満州国の健全な発達これは漢人に対しましてはいかに大きな影響を及ぼすか、彼等は日夜軍閥に搾取されて、自分の生存を非常に脅威されております。しかるに隣の満州国は逐次王道主義でもって楽土が建設されている、租税もだんだん安くなってくる、文化は非常に発展して来るということになれば、これは隣にいる支那の人にとっては非常に羨ましいことに違いはないのであります。これが満州国に対する支那人の認識を変え、従って日本と支那との関係を修正するに非常に大きな効果をもたらすのであります。ということは今さらここで詳しく喋々と皆様に申し上げる必要はないかと考えております。これはほんの一例でありまして、しかもこれは非常に重大な日支関係修正上の問題であろうと考えます。長々お話し申上げまして、その間ご清聴を頂きまして、ありがとうございます。これで私の話を終わりたいと思います。(拍手)ー講演時間1時間ー

 

(句読点、漢字、旧仮名遣いなどは現代に合わせて修正)

 

 

 

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